BARISTA BOX

Weekly Coffee Commentary.

No.37

Snow Top

Brand Information ☝️"tap"

No.37:Snow Top

生産国:タンザニア

エリア:アルーシャ地区

標高:1300m〜1800m

品種:ケント、ブルボン

生産元:ブルカ農園

生産処理:ウォッシュド

プロファイル:ラズベリー、ベイクドアップル、プラム


日本でも「キリマンジャロ」の名前で知られる、コーヒー生産国タンザニア。主に、果肉を剥いで水洗いしてから乾かす、ウォッシュドプロセスの、アラビカ種を栽培し、一部地域で、果肉をつけたまま乾かす、ナチュラルプロセスの、カネフォラ種を栽培していて、生産比率はアラビカ種が半分強の、割合となっています。エリアとしては、チャガ族語で「私達の山」を意味する、キリマンジャロ周辺のアルーシャ、モシ、内陸部のンゴロンゴロ周辺、西部のキゴマ、そして南部のムベヤ、ムビンガでも、近年良質なアラビカ種が生産されています。今回のスノートップは、このアルーシャ地区で、生産されたものです。カネフォラ種は、ビクトリア湖西方の、ブコバ地区で生産されています。以前は、南部のアラビカ種は、品質が劣るとされてきましたが、近年は、設備や生産処理、そして生産者の品質志向により、品質が大きく向上し、北部産のコーヒーとの優劣の差は、小さくなりつつあります。タンザニアのコーヒーは、スクリーンサイズで格付けされていて、欧米などでは、枝先にできる希少な丸豆、ピーベリーが好まれています。タンザニアでは、小規模生産者のコーヒーは、品質にばらつきがみられる傾向があり、大規模農園産のコーヒーが、高品質とされてきましたが、近年は、小規模生産者をグループ化し、セントラル・パルパリー・ユニット、略称CPUと呼ばれる、小さな水洗設備を共同で使用し、高品質なコーヒーを生産しようとする、動きがみられます。またフェアトレード認証のコーヒーも、徐々に登場してきています。味わいとしては、強い酸味とコク、豊かな香りが特徴です。柑橘系のすっきりとした酸味と、ビターチョコレートのような、甘く深いコクがあります。深煎りにすると、濃密なキャラメル感を、楽しむことができます。永年住んでいる原住民でさえも、雨のあとの夕暮れ時、大平原の遥か向こうにそびえる、アフリカの最高峰・キリマンジャロの優雅な姿には、思わず見とれてしまうといいます。頂きは、万年雪で覆われ、裾野は紫色にけむり、山の背景にある雲は、茜色に輝きます。昼の蒼さから、夜の闇へと、刻一刻と変化する、黄昏時のキリマンジャロの壮大な雄姿は、アフリカ大陸一番の、美しい風景といわれています。タンザニアコーヒーは、その山の、緩やかな斜面に育ち、インド洋からの、さわやかな風と、熱帯特有のたたきつけるような雨と、キラキラと輝く、太陽の恵みを一杯に受けた、ティピカとブルボンの配合種、ケント種が栽培されています。芳醇で、甘酸っぱい風味のコーヒーは、アフリカの味として、世界で支持されています。その中でも、ひときわ大粒で、気候条件に恵まれた、アルーシャ地方の高地だけに生育する、ごく少量のコーヒーは、最高級品との意味合いから、他のダブルAグレードの物と区別するために、スノートップと呼ばれています。 この名前の由来は、キリマンジャロの頂きを、一年中覆う、万年雪から来ています。アフリカの風の囁きと、雨の優しい匂いと、まぶしく煌く陽光に育まれた、まさにアフリカンコーヒーの、最高傑作といえます。

  • 7月 第1週目 コーヒーの抽出方法

No.38

MASAI

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No.38:MASAI

生産国:ケニア共和国

エリア:複数ファクトリーブレンド

標高:1,600m〜2,000m

品種:SL28、SL34

生産者:ドーマン社

生産処理:ウォッシュド

プロファイル:クランベリー、トマト、バニラ


ドーマン社は、ケニアの首都、ナイロビにある、ケニア最大手のコーヒー商社です。ケニアやタンザニアの、良質なコーヒーを扱っていて、日本の商社とも提携しています。ドーマン社は、小規模農家と堅い信頼関係を構築することで、持続可能な農業を目指しています。定期的に栽培セミナーや、最新の情報を発信し、生産量や品質向上のサポートを行っています。また、2014年には、精選所を買収し、高品質水洗式コーヒーの開発にも取り組んでいます。 ドーマン社の敷地内には、生豆倉庫、生豆選別機器、ハンドピック、焙煎場、サンプルルーム、クオリティーコントロールルーム、カッピングルーム、バリスタトレーニングルームなど、コーヒーに関する、あらゆる設備が整えられています。そんなドーマン社が企画する、高級ブランドの名称が、今回のマサイです。長年に渡り、安定した品質で、安定した供給を行ってきたことで、今では、ケニア高級コーヒーの、代名詞的な存在となっています。毎年、安定した品質を維持できるのは、マサイの風味特徴を、ドーマン社がしっかりと理解し、最適なファクトリーの原料を、最適な比率でブレンドしているからです。ファクトリー毎に、そもそもが美味しいのは当然ですが、それらを組み合わせることで、いつものマサイ風味を作り上げ、厳しい審査基準のもと、世界へ送り出しています。カップの美しさはもちろんのこと、それを長年続けているというところに、マサイの凄みがあります。通常のケニア産コーヒー豆の場合、特に産地指定がないため、あらゆる環境でつくられたコーヒー豆が混ぜられていますが、マサイは違います。高品質豆が採れる、ケニア山に位置する、トップグレード農園の原料を、贅沢にブレンドし、よりはっきりとした輪郭を作り出しています。あえて農園を、個別に指定をしないことで、毎年の品質安定を図っています。味わいとしては、クリーンで甘酸っぱい香り。ロットにより、フレーバーが弱い時と、強い時の差がありますが、カシスや花のような香り、柑橘系の酸、パッションフルーツ、ドライフルーツなどの香り、スパイス系の香りなど、複雑に入り組んでいて、太めのボディーと甘味も相まって、はっきりとした香りが楽しめます。今回のロットは、ニエリ地区3社で36% 、キリニャガ地区2社で44% 、エンブ地区2社で20%の、合計7つのファクトリーのブレンドです。ファクトリーでは、完熟チェリーからパーチメントまで、じっくり時間をかけて仕上げています。

  • 7月 第2週目 コーヒーの保存方法

No.39

Remera

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No.39:Remera

生産国:ルワンダ

エリア:ルワンダ南部県ニャマガベ

標高:1920m

品種:ブルボン

生産者:BUF Coffee(サムエル・ムヒルワ)

生産処理:フリーウォッシュド

プロファイル:グリーンアップル、ライム、チェリー


千の丘の国と呼ばれるルワンダは、非常に緑が多く、なだらかな丘陵が、地平線の向こうまで続きます。この美しい丘の国、ルワンダの、1500mから2000mの高原で、コーヒー栽培が盛んに行われております。レメラ・コーヒーウォッシングステーションは、首都キガリから3時間ほど、ルワンダの代表的なコーヒー生産地である、南部ニャマガベの、標高1920mに位置します。コーヒーチェリーは、周辺に暮らす、約3000人の小規模生産農家の手で、生産されていますが、農園の最高標高は、2200mまで達しています。レメラ・ウォッシングステーションは、数々のコーヒー加工設備を保有する、バフコーヒー社にとって、初めてのウォッシングステーションとして、2003年に設立されました。元々、コーヒー生産農家だった、エピファニーさんが、夫亡き後、コーヒー生産を引き継ぎ、7人の子供たちを育てるために、アメリカ国際開発庁、略称USAIDがサポートする、ルワンダのコーヒー生産プロジェクトに、参加したことがきっかけで、産業に関わり始めました。そこで彼女は、コーヒーの生産と品質に関して研鑽を重ね、バフコーヒーを設立。更なる品質向上を目指して、レメラ・ウォッシングステーションをつくり、ルワンダでコーヒー生産を手掛けた、ファーストレディと、呼ばれています。現在は、第一線から退き、息子のサムエル氏を中心に、3つの水洗設備を構え、7000人の農家と共に、コーヒーの生産を行うまでに、大きく成長しました。設立当初、チェリーを持ちこむ農家は、500件程度でしたが、現在3000件以上を抱えるまでに、成長を遂げたのは、ステーション周辺に、いくつかのチェリー収集所を設け、トラックで集荷する事で、運搬による農家の負担を、軽減したことも大きな要因となっています。 持ち込まれたチェリーは、一度粗選別を行った後に、タンクでフローター、水に浮かぶ虫食い豆の除去が行われます。その後、水洗工程において重さで振り分ける、比重選別がなされ、重量のあるチェリー、パーチメントが選別されます。乾燥状態が均一になるよう、ウォッシュド、ナチュラル、共にパティオの上で、撹拌・調整が事細かに行われています。レメラには降雨対策として、10段におよぶ、巨大な屋根つきアフリカンベッドが建設され、品質向上に大きく役立っています。

  • 7月 第3週目 コーヒーと食器の秘密

No.40

GHALIB

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No.40:GHALIB


生産国:イエメン

エリア:サナア州マナーカ町ハラズ地域ワディセイル村

標高:1700m〜2240m

品種:ティピカ

生産者:ガーリブ・アルハッマシ

生産処理:アナエロビックナチュラル

プロファイル:バーボン、ラムレーズン、ミルク


イエメンは、中東における、唯一のコーヒー生産国です。主な言語はアラビア語で、国内の99%もの人が、イスラム教徒です。今回のロットが作られている、イエメン・ハラズ地域は、イエメン北西の高地に位置し、最高標高は2,400mにもなり、周辺と比べると、非常に寒冷な地域です。ハラズ周辺は、豊かな火山性土壌が広がっていて、レーズンを思わせる、優しくフルーティーな酸味と、滑らかな口当たり、チョコレートのような後味が特徴の、高品質なコーヒーを育みます。イエメンの中でも、良質なコーヒー豆が取れる産地、モカ・ハラズの名で有名です。農園主のガーリブさんは、300年以上つづく、先祖から代々受け継いできた、歴史あるコーヒー農園を管理していて、現在でも、新しい苗木への植え替え、こまめな剪定作業、堆肥のブレンドなど、きめこまやかな管理を行なっています。標高が1,700mから2,240mと、非常に幅広いエリアからも分かる通り、農園は、傾斜の激しい山肌にあるため、コーヒーは斜面を、棚田のようにして栽培しています。標高が高く、気温が低いため、シェードツリーを使わず、日光を存分に当てて、コーヒーを栽培しています。ガーリブさんが住んでいる、ワディセイル村の主な農作物は、コーヒーと麦で、日頃は自らパンを作って、毎日の食事にしています。現地の言葉で「ワディ」は谷、「セイル」は水源を意味し、その名の通り水が豊かな土地です。ガーリブさんの、コーヒーの品質に対する情熱は、周りの農家からも尊敬を集める、地域のリーダー的存在です。今回のロットは、蓋をしめ、タンクを密閉した状態で発酵させる、アナエロビックファーメンテーション、いわゆる嫌気性発酵を行ったのち、果肉がついた状態で乾かし、さらに、アメリカン・ホワイトオーク・バレルの中で、およそ1ヶ月かけて、じっくり熟成させた、至極のエイジングコーヒーとなっています。ホワイトオークでつくられたバレルは、内側をバーナーで焼きつけることで、バニリンを発生させるようになり、独特の華やかな甘味をもたらします。麦でつくった蒸留酒を、ホワイトオークの中で眠らせたものは、一般的にバーボンと呼ばれ、甘味と華やかさが強いウイスキーとして、世界で愛されています。この製法に習い、樽での熟成が施されている今ロット。非常に厚みがあり、まろやかで旨味を強く感じる、素晴らしい仕上がりになっています。また、今回ご紹介する、イエメニア、という新しい品種。実は、発見されたばかりの新種で、今、世界から注目を浴びている、超希少種になります。2020年に発見され、同年の、イエメンコーヒー品評会では、なんと、1位から10位まで、全てをこのイエメニアが独占。世界最高級でお馴染みの、ゲイシャを超える価格と希少性で、世界のスペシャルティコーヒー業界で、脚光を浴びている、新母体品種です。コーヒーには、さまざまな品種がありますが、突然変異や、品種改良によって、新しい品種が生まれてくる前には、元となったご先祖さまの品種があります。血統が混ざり合っていない、純血の根幹種、それが母体品種と呼ばれるものです。これまでは、ティピカやブルボンを先祖とする品種、アフリカ由来のSL種を先祖とする品種、エチオピア原種を先祖とする品種が、世界でよく知られていました。イエメンのコーヒーも、きっといずれかの先祖、血筋にに属するだろう、と考えられてきましたが、詳しく調べてみると、全く別の遺伝系統であることがわかりました。人類がコーヒーに出会ってから数百年、今になって、新しい先祖が発見されるなんて、と全世界が驚きました。コーヒー業界には、これまで信じられてきた常識が、一気に覆されたという、とてつもない衝撃が走りました。単なる新種ではなく、新母体種であったことは、植物学の観点からも、異例といえる大発見でした。肝心の味わいとしては、エキゾチックで妖艶な香り、イエメンらしいスパイシーさ、どっしりと腰の据わったボディーに、こってりとした甘さ、バター感のあるまろやかなコクが感じられます。重ための味わいで、酸味はあまり強くなく、濃厚で独特な香りは、ナチュラルプロセスや、インフューズドプロセス、樽を使った、ロングエイジングなどとの相性が良い、と言えるでしょう。1700年代に発見された、ティピカ、ブルボン系統、1900年代に発見された、SL34、SL17系統、エチオピアに受け継がれる、原生種系統。そこに、2020年、新たな系統、イエメニアが追加されたことには、大きな意味があります。イエメンに育つコーヒーの木は、高温環境にも、低温環境にも強く、水の少ない地域でも育つ、干ばつ耐性も持っています。イエメンという、土地柄の特徴と思われていたこれらの耐性が、もし、イエメニアという品種由来の特性だとしたら、人類は、ついに、強さと美味しさを両立した品種を、発見したことになります。これから時間をかけて、イエメニアを細かく研究していくことによって、コーヒー業界に、ある希望が見えてくるであろうことがわかります。様々なロースタリーで叫ばれている、コーヒーの2050年問題。耳にしたことがある方も、たくさんいらっしゃることと思います。2050年問題とは、地球温暖化によって、2050年までには、アラビカ種のコーヒー栽培に適した土地が、およそ半分に減ってしまうという、コーヒー産業を脅かす、地球規模の大きな問題のことです。新たに発見された、イエメニアの遺伝子を研究していけば、イエメンのコーヒーが持つ、厳しい環境下にも耐えうる、強い遺伝特性を発見できるかもしれません。イエメニアには、もっとおいしいコーヒーを作りたいという、作り手としての希望だけではなく、地球環境が変わっても栽培し続けられる品種を、人の手によって作れるかもしれないという、産業全体の希望も込められているのです。イエメンは、アラビア半島の最南端に位置する国で、エチオピアと並び、コーヒー発祥の伝説が語り継がれている、コーヒーの歴史が深い国で、地元の農家の中には、500年以上も受け継がれてきている、老舗農園も存在しています。ではなぜ、イエメニアは、昔から生産されていたはずなのに、今更新発見と言われているのでしょうか。実はイエメンは、宗教上の対立や、政治不安が起こりやすい国であるため、内戦を始め、治安上のあらゆる問題があり、これまで、欧米諸国による、コーヒーの学術的な研究が、ほとんど進められとこなかったのです。単なるアラビカ種のコーヒーとして生産され、私たちも、詳しいことを知らないまま、美味しく飲んできたのでしょう。新たな母体品種、イエメニア、は、2020年8月、キマコーヒー社によって、世界に発表されました。キマコーヒー社は、2016年に設立された、イエメン産の豆を中心に取り扱う、コーヒー専門商社です。これまで、イエメンのコーヒーは、あまり品質の高いものではなく、発酵ムラやスクリーンのばらつき、異物の混入が散見される、そんな状況にありました。キマコーヒー社が中心となり、生産者への栽培指導や、インフラの整備を行ったことで、徐々に生産者の意識も変わり、近年では、素晴らしいスペシャルティーコーヒーが、生産されるようになりました。そんなキマコーヒー社が中心となり、イエメンで生産されている、アラビカ種コーヒー豆を、遺伝子レベルで分析して、特徴ごとにグループ分けすると、どんな品種がみつかるのか、という大規模な調査を行ったことが、イエメニアの発見に繋がりました。2度と手に入らないかもしれない、幻の一杯を、ごゆっくりお楽しみください。

  • 7月 第4週目 新母体種・イエメニア

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