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No.40 ガーリブ
No.40 ガーリブ
No.40:GHALIB
生産国:イエメン
エリア:サナア州マナーカ町ハラズ地域ワディセイル村
標高:1700m〜2240m
品種:ティピカ
生産者:ガーリブ・アルハッマシ
生産処理:アナエロビックナチュラル
プロファイル:バーボン、ラムレーズン、ミルク
イエメンは、中東における、唯一のコーヒー生産国です。主な言語はアラビア語で、国内の99%もの人が、イスラム教徒です。今回のロットが作られている、イエメン・ハラズ地域は、イエメン北西の高地に位置し、最高標高は2,400mにもなり、周辺と比べると、非常に寒冷な地域です。ハラズ周辺は、豊かな火山性土壌が広がっていて、レーズンを思わせる、優しくフルーティーな酸味と、滑らかな口当たり、チョコレートのような後味が特徴の、高品質なコーヒーを育みます。イエメンの中でも、良質なコーヒー豆が取れる産地、モカ・ハラズの名で有名です。農園主のガーリブさんは、300年以上つづく、先祖から代々受け継いできた、歴史あるコーヒー農園を管理していて、現在でも、新しい苗木への植え替え、こまめな剪定作業、堆肥のブレンドなど、きめこまやかな管理を行なっています。標高が1,700mから2,240mと、非常に幅広いエリアからも分かる通り、農園は、傾斜の激しい山肌にあるため、コーヒーは斜面を、棚田のようにして栽培しています。標高が高く、気温が低いため、シェードツリーを使わず、日光を存分に当てて、コーヒーを栽培しています。ガーリブさんが住んでいる、ワディセイル村の主な農作物は、コーヒーと麦で、日頃は自らパンを作って、毎日の食事にしています。現地の言葉で「ワディ」は谷、「セイル」は水源を意味し、その名の通り水が豊かな土地です。ガーリブさんの、コーヒーの品質に対する情熱は、周りの農家からも尊敬を集める、地域のリーダー的存在です。今回のロットは、蓋をしめ、タンクを密閉した状態で発酵させる、アナエロビックファーメンテーション、いわゆる嫌気性発酵を行ったのち、果肉がついた状態で乾かし、さらに、アメリカン・ホワイトオーク・バレルの中で、およそ1ヶ月かけて、じっくり熟成させた、至極のエイジングコーヒーとなっています。ホワイトオークでつくられたバレルは、内側をバーナーで焼きつけることで、バニリンを発生させるようになり、独特の華やかな甘味をもたらします。麦でつくった蒸留酒を、ホワイトオークの中で眠らせたものは、一般的にバーボンと呼ばれ、甘味と華やかさが強いウイスキーとして、世界で愛されています。この製法に習い、樽での熟成が施されている今ロット。非常に厚みがあり、まろやかで旨味を強く感じる、素晴らしい仕上がりになっています。また、今回ご紹介する、イエメニア、という新しい品種。実は、発見されたばかりの新種で、今、世界から注目を浴びている、超希少種になります。2020年に発見され、同年の、イエメンコーヒー品評会では、なんと、1位から10位まで、全てをこのイエメニアが独占。世界最高級でお馴染みの、ゲイシャを超える価格と希少性で、世界のスペシャルティコーヒー業界で、脚光を浴びている、新母体品種です。コーヒーには、さまざまな品種がありますが、突然変異や、品種改良によって、新しい品種が生まれてくる前には、元となったご先祖さまの品種があります。血統が混ざり合っていない、純血の根幹種、それが母体品種と呼ばれるものです。これまでは、ティピカやブルボンを先祖とする品種、アフリカ由来のSL種を先祖とする品種、エチオピア原種を先祖とする品種が、世界でよく知られていました。イエメンのコーヒーも、きっといずれかの先祖、血筋にに属するだろう、と考えられてきましたが、詳しく調べてみると、全く別の遺伝系統であることがわかりました。人類がコーヒーに出会ってから数百年、今になって、新しい先祖が発見されるなんて、と全世界が驚きました。コーヒー業界には、これまで信じられてきた常識が、一気に覆されたという、とてつもない衝撃が走りました。単なる新種ではなく、新母体種であったことは、植物学の観点からも、異例といえる大発見でした。肝心の味わいとしては、エキゾチックで妖艶な香り、イエメンらしいスパイシーさ、どっしりと腰の据わったボディーに、こってりとした甘さ、バター感のあるまろやかなコクが感じられます。重ための味わいで、酸味はあまり強くなく、濃厚で独特な香りは、ナチュラルプロセスや、インフューズドプロセス、樽を使った、ロングエイジングなどとの相性が良い、と言えるでしょう。1700年代に発見された、ティピカ、ブルボン系統、1900年代に発見された、SL34、SL17系統、エチオピアに受け継がれる、原生種系統。そこに、2020年、新たな系統、イエメニアが追加されたことには、大きな意味があります。イエメンに育つコーヒーの木は、高温環境にも、低温環境にも強く、水の少ない地域でも育つ、干ばつ耐性も持っています。イエメンという、土地柄の特徴と思われていたこれらの耐性が、もし、イエメニアという品種由来の特性だとしたら、人類は、ついに、強さと美味しさを両立した品種を、発見したことになります。これから時間をかけて、イエメニアを細かく研究していくことによって、コーヒー業界に、ある希望が見えてくるであろうことがわかります。様々なロースタリーで叫ばれている、コーヒーの2050年問題。耳にしたことがある方も、たくさんいらっしゃることと思います。2050年問題とは、地球温暖化によって、2050年までには、アラビカ種のコーヒー栽培に適した土地が、およそ半分に減ってしまうという、コーヒー産業を脅かす、地球規模の大きな問題のことです。新たに発見された、イエメニアの遺伝子を研究していけば、イエメンのコーヒーが持つ、厳しい環境下にも耐えうる、強い遺伝特性を発見できるかもしれません。イエメニアには、もっとおいしいコーヒーを作りたいという、作り手としての希望だけではなく、地球環境が変わっても栽培し続けられる品種を、人の手によって作れるかもしれないという、産業全体の希望も込められているのです。イエメンは、アラビア半島の最南端に位置する国で、エチオピアと並び、コーヒー発祥の伝説が語り継がれている、コーヒーの歴史が深い国で、地元の農家の中には、500年以上も受け継がれてきている、老舗農園も存在しています。ではなぜ、イエメニアは、昔から生産されていたはずなのに、今更新発見と言われているのでしょうか。実はイエメンは、宗教上の対立や、政治不安が起こりやすい国であるため、内戦を始め、治安上のあらゆる問題があり、これまで、欧米諸国による、コーヒーの学術的な研究が、ほとんど進められとこなかったのです。単なるアラビカ種のコーヒーとして生産され、私たちも、詳しいことを知らないまま、美味しく飲んできたのでしょう。新たな母体品種、イエメニア、は、2020年8月、キマコーヒー社によって、世界に発表されました。キマコーヒー社は、2016年に設立された、イエメン産の豆を中心に取り扱う、コーヒー専門商社です。これまで、イエメンのコーヒーは、あまり品質の高いものではなく、発酵ムラやスクリーンのばらつき、異物の混入が散見される、そんな状況にありました。キマコーヒー社が中心となり、生産者への栽培指導や、インフラの整備を行ったことで、徐々に生産者の意識も変わり、近年では、素晴らしいスペシャルティーコーヒーが、生産されるようになりました。そんなキマコーヒー社が中心となり、イエメンで生産されている、アラビカ種コーヒー豆を、遺伝子レベルで分析して、特徴ごとにグループ分けすると、どんな品種がみつかるのか、という大規模な調査を行ったことが、イエメニアの発見に繋がりました。2度と手に入らないかもしれない、幻の一杯を、ごゆっくりお楽しみください。